八月六日を前に【原爆供養塔】を読む。平和
記念公園の片隅に『土饅頭』と呼ばれる供養
塔がある。かつて、いつも黒い服を着て清掃
する佐伯敏子さんの姿があった。なぜ彼女は
供養塔の守り人になったのか。そこで眠る被
爆者の遺骨は名前や住所が判明しながら、な
ぜ無縁仏なのか・・もうひとつの広島の真実。
被爆二世でありながら【あの日の広島】を知
らないこと多々のワタシです。帰省の際、慰
霊碑を前に黙祷することあるも、恥ずかしな
がら供養塔のことは気づきもしませんでした。
ここでは自分の意見を言い表すより、本書か
ら佐伯さんと著者の言葉を抜粋して記します。
佐伯さんは元気なころから、「平和公園」と
いう言葉を使いたがらなかった。むしろ「地
獄公園よ」と言っていた。あそこには五つの
町があって、沢山の遺骨がまだ下に眠ってい
る。塗り固められたコンクリートの上は平和
に過ぎたけど、佐伯さんはずっと地下に眠る
死者たちのことを思い続けた。 生きてる人
はね、戦後何年、何年と年を刻んで、勝手に
言うけどね、死者の時間はそのまんま。あの
日からなにも変わってはおらんのよ。年を数
えるのは生きとる者の勝手。広島に歳はない
んよ。歳なんか、とりたくても、とれんのよ。
かつて佐伯さんは、八月五日はいつも供養塔
のそばでひとり、じっと夜を明かしてました。
お通夜というよりもね、八月五日という日は
ね、ここにいる皆さんは、まだ生きておられ
たでしょ。家族と一緒に、普通の生活を暮ら
しておられたんよね。じゃから三百六十五日
のなかで、この八月五日という日は、もしあ
の日に帰れたら、時よ止まれと言いたいよね、
どんな日よりも愛おしく思うよね。
本書は、時間をかけた緻密で丁寧な取材より
積み上げられてきた事実を頁の端々から読み
取ることができます。ひとりでも多くの方に。